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@はじめに: 昨今の日本では「超高齢社会の抱える問題」が激化し、歯科でもインプラント上部構造および テレスコープ、コーヌステクニックなどを応用したドッペルクローネ補綴装置が到来するであろう。 とりわけテレスコープクローネやコーヌスクローネの如く、患者の咬合力荷重を支台植立方向へ 平行に伝達し、支台を保護することによって、長期間の予後を実現することが重要です。
それに対応するためには、特に内冠部にミリングテクニックを用いた作業工程が必須となります。 このページでは誰もが容易にミリング加工を行うことができるように、 「ミリングテクニックにおける基本」をご説明したい。
Aミリングマシーンの用途とその取扱い方:
ミリングマシーンの用途は、側面ミリング、ドリリングおよびこの前後者の双方を併用した グルービングの三種類に大別されます。
Bミリング前準備 01.清掃; マスター模型の模型用雲台への固定後、模型用雲台をミリングマシーンにマグネット固定しますが、 ミリングテーブルが著しく汚れ、切削片が散乱している場合には、 モデルテーブルの基底面がミリングテーブルに対して正確な面での接着ができなくなります。
特にワックスミリング後はワックス片の付着が頻発するために、 作業終了後に必ずモデルテーブル基底面およびミリングテーブル双方の清掃を行って、 常に確実な平面を保持する必要があります。
図02&03 ミリング作業前にミリングテーブルおよび模型用雲台の基底面を清掃します
02.ミリングテーブル中央部でのミリング角偏差の抑制; 模型用雲台の中心部と偏心部には、その勾配に僅かな誤差が生じる場合があります。 そこでミリング加工する際、可能な限り中心部にミリングバーや模型等を固定させることによって、 ミリングテーブル位置によるミリング角偏差を極力抑えることも重要です(図04)。
図04 ミリングテーブル位置によるミリング角偏差なくすため、中心部でミリングしよう
03.ミリングバー回転の確認と回転数 左手の中指は人差指から直ぐに開放でき、手指によるミリングバー回転の質感を精査 を行ないましょう。 切削作業は必ずミリングバーの切削性能に委ね、腕力に頼る削合は禁忌です。
過度な力を加えると正確なミリングを妨げるばかりか、ミリングバーの破損にも繋がりかねません。 (このミリングマシンでは最高50,000min^-1まで回転数を調節可能であるものの、 必ず最高15,000min^-1までに止めることが重要です)。
図05&06 ミリングバー回転質感の精査と回転数の調整
Bミリング加工の実際 01.潤滑油の塗布
図07&08 *潤滑油を塗布することは、スムーズなミリングを可能とするだけでなく、 ミリングバーの損耗も軽減します。
02.ハンドリング及び姿勢;
脇を締めて、ミリングマシーン本体を包み込むような姿勢が重要です。 模型用雲台(ミリングテーブル)はなるべく目線に平行に近くし、切削片の飛散による創傷を防ぐ 意味で、マスクやゴーグルを着用しましょう。
作業アームは中央部で右折れと左折れします。 そのミリング角のバラツキを無くすため、 必ず作業アームは一定の折れ方に統一することが重要です。
ミリング作業のハンドリングは、 左手(利き手と反対の手:我々の利き手は右手である)の中指、薬指と小指の手指3本で しっかりとモデルテーブルおよび模型(支台)を保持します。 残りの親指と人差指で被切削体を支台に適合させた状態で強固に把持することが大切です。
図09 ミリングマシンのハンドリング
その後、ゴルフクラブグリップをオーバーラッピング式で握る要領で、 右手(利き手)の中指、薬指と小指はそれぞれ左手の人差指、中指と薬指上に乗せて固定しつつ、 マイクロモーターハンドルを右手の親指と人差指の腹で把持することによって 正確にコントロールすることが可能となります。
こうしてマイクロモーターハンドルに装着したミリングバーと被切削体は、 右手の感覚で精密に操作でき、安定した作業を行うことが可能です。
C切削バーの特徴とその使用法 01.切削バーの種類および個体差 均一でブレの少ない個体と比較的ブレの大きい個体があり、視認出来ない程の僅かなブレでさえ マイクロモーターの低速回転(3000〜5000rpm)による手指に依拠することによって、 少なからず優位差を感じ取ることができます。 切削バーのブレは回転速度が増すに比例して顕著になることから、 ブレが大きいほど手指に伝達される振動は大きく、切削音は鈍く低音になります。
02.ミリングバーの種類とその用途
図10 メタルミリング用のカーバイドバー(Bredent);中研磨用のカーバイドバーを主に使用します 図11 ワックスカッターおよびワックススピンドル(Heraeus-Kulzer)
図12 ダイヤモンドバー(Heraeus-Kulzer);セラミックス内冠等のミリングに用いる 図13 穿孔用ドリリングバー(Heraeus-Kulzer)
03.1本のみの切削バーによる全工程の完成 ミリングマシーンのマイクロモーターチャックの構造的問題として、一度チャックを開放すれば 僅かながらも必ず回転軸にブレが生じる。 最初の削出しから最後の研磨に至るまで、基本的に1本のバーで仕上げることを望みます。 ミリング用ワックス(Heraeus-Kulzer)をミリングバーに付着させ、艶出し研磨を行って下さい。
図14 粗削り後(回転数12,000〜5,000rpm2段階のミリング加工を行なう) 図15 艶出しミリング研磨後
04.ミリングバーの慣化および優れた切削力を発揮するミリングバー 新品のミリングバーは比較的回転軸がブレやすい傾向にあるものの、 これが数回使用することで慣化されてゆき、 ブレが少なく均一なミリング面が得られる優良なミリングバーへと変化する。
図16 適度の回数、使用されたミリングバー(Bredent) 開封当初よりも粗さが減少し、より緻密なミリング面の形成が可能です 図17 チタンコーティングによって強化されたブラックミリングバー(茂久田商会)は、 極めて優れた切削力を発揮します
D 超高齢社会とは?
ここでは、「超高齢社会とはいったい何であるか?」を理解しておく必要があるでしょう。
表01 高齢社会の定義
2007年、日本では人口推計の結果として、65歳以上の高齢者が占める割合は全人口の21.5%と 基準値の21%を超えて、既に超高齢社会となっているのです。 総務省によれば、2013年の推計人口(1億2706万人)のうち、65歳以上の人口は3186万人を数え、 総人口に占める割合は25.0%と過去最高の人口の4人に1人が高齢者となりました。
01.超高齢社会を考慮した歯科医療の重要性:
10〜20年前は、歯牙喪失の患者へ対応するため、 インプラント上部構造体において固定性サポートを行なうことに重点が置かれていました。 その結果、 数年前まで審美性、およびペリオ補綴学の可能性に焦点が当たることになったのです。
そして現在、その重点は益々、高齢化する患者の補綴治療に置かれるのものの、 高齢患者といえども精神面ではまだ若々しく、生活の質的向上を期待しています。
しかしながら、高齢患者の全身疾患への進展も考慮する必要があります。
そこで、歯科治療の推移が示唆するように、多くの歯牙喪失、または無歯顎の患者への 治療アプローチに対応するためのも、歯科補綴装置が患者自身、あるいは介護者によって、 容易に可撤、清掃できることを鑑みるべきでしょう。
02.高齢者の定義年齢見直し
画期的な提言を発表しました。 65〜74歳を「准高齢者」、75〜89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」 として定義することを社会に提言したのです。
インプラント補綴における長期的成功率およびインプラント・天然支台による複合補綴装置の 高い生存率は、テレスコープテクニックやコーヌステクニックなどのドッペルクローネ補綴装置や アタッチメント補綴装置との組合せも含め、 これからのミリングテクニックの重要性を示唆するものでしょう。
*詳細については下記、論文をお読みいただければ幸いです。 >> 初めてのミリングテクニック 第1回 ミリングテクニックの基礎 前編 永末書店+ZERO Vol.15 No.2 2016春 >>初めてのミリングテクニック 第2回 CAD/CAMシステムを包含したミリングテクニックの基礎 後編 永末書店+ZERO Vol.15 No.3 2016夏
【関連記事】 >> 歯科技工別冊/超高齢社会を見据えたパーシャルデンチャーの作製 より抜粋 月刊「歯科技工」、医歯薬出版株式会社、東京
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