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「前歯をデジタルカットバックしてみた」
皆様はマトリョーシカをご存知でしょうか?
ええ、ロシア土産のアレです。 上下に分割できる入れ子人形のことです。
人形をパカッ!と開けると中に一回り小さな人形が入っていて、 それを開けるとまた一回り小さな人形が出てくる。 そして更にそれを開けると……といったものです。
マトリョシカと聞くと、私の中ではサンホラやハチ(米津玄師)の楽曲が 真っ先に思い浮かぶわけですが……脱線するので置いておきます。
今回はそんな多層構造のお話です。
歯科の世界における多層構造の代表格といえば、 やはり前装冠やメタルボンドといったレイヤリングクラウンが挙げられるのではないでしょうか。
そしてレイヤリングクラウンのフレーム設計は、まず最終外形の縮小形を基本とし、 そこにカラー等のサポート形態を付与するというのが一般的な概念です。
ところが実際に最終外形を回復してカットバックを行う場合、 厳密にやろうとするとこれがなかなか難しかったりします。
専用のインスツルメントを使用する、エンジンを使用する等手法は様々ですが、 均一なクリアランスになる様に削るのは思いのほかうまくいかないものです。
最終外形をワックスアップしてそれをスキャンすれば、 あとは機械が画面上で設定した数値通りにカットバックしてくれる優れもの。
むしろデジタルワックスアップをすれば、 マウスをカチカチするだけでフレーム設計ができちゃいます。
もうこれさえあればフレーム設計は怖くありませんね!!
よっしゃ、ほなワンクリックでデジタルカットバックすんで〜〜。
…………(;^ω^)
ええまぁ、こうなりますよね。
露骨に切端が短いのはもちろん、 どうにも最終外形の縮小系になっていなさそうなのがお分かりかと思います。
本来、こんな感じ↓になってくれてればいいんじゃないかなと。
さて、何故想像した通りの形になってくれないのでしょうか?
それもそのはず。 仮に全体1.0mmカットバックと設定しても、 そもそも歯の厚さが3.0mmくらいなければ、薄すぎて何も残らなくなってしまうのです。
加えて、ジルコニアフレームなどは切端を必ず丸めなければいけませんので、 丸めた分だけ更に短くなるのが必然です。
すると上記のケースの様に唇舌の厚さがない場合、 こんなに小さく短いフレームになってしまうのです。
機械は単に人間の指令通りにカットバックしたにすぎませんから、 これを人間が手動で是正する必要が出てきます。
特にサポート形態は咬合状態に応じて変化するものですから、 フレーム設計に対してはこうした知識と経験も不可欠になってきます。
レイヤリングクラウンのフレームはマトリョーシカの様に簡単な構造ではありませんから、 デジタルワックスアップさえすれば後はカットバックボタン押すだけで 簡単にフレーム設計オッケー!というわけにはいかないのです。
確かにCAD/CAMの「操作そのもの」は非常に簡単です。 モンハンでリオレウスを討伐する方がよっぽど複雑で難しい操作を求められます。
しかし、CAD/CAMはあくまでツールでしかありません。
操作する人間に臨床的知識や経験が無ければ、 間違ったものを製作してしまう可能性が高いことは、必ず覚えておかなければならないでしょう。
ライター 瀬 直
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