「ジルコニアは模型上で 咬合調整しちゃいけない!…って本当?」 |
「ジルコニアは模型上で 咬合調整しちゃいけない! ……って本当?」
結論から言って、 ジルコニアクラウンを支台歯模型に嵌めたままの咬合調整はNGです。
私は切削加工クラウンを削る時、 必ず支台歯から外して切削しています。
え?メタルボンドで散々やってきたけどトラブルなかったよ?
イチイチ模型から外してたら、保険のクラウンは数が多いから 仕事終わらなくなるよ!
おっしゃる通りです。
しかし、メタルレストレーションの場合は支台歯模型に入れたまま削ったところで、 大きな問題になり辛いのです。
では、何故ジルコニアはダメなのでしょう。
答えは適合性の相違にあります。 >>過去のブログで述べました通り、現行の仕様において、 切削加工クラウンはマージンなどの鋭縁部の再現性において難があります。
当然、スキャン時に再現しきれなかった箇所は干渉部位になりますので、 大抵の切削加工クラウンは下図のように削り出されてきます。
図1マージンが干渉して浮き上がっている状態
なるほど、これはマージン部内面から先に調整しなければ適合しなさそうですね。 実際にジルコニアクラウンの多くは、マージン部を調整しまくることによって適合させています。
マージン部の調整が面倒な場合は、 山本眞先生発案の「エッジ延長法」を応用することで問題が解決します。
鋭縁の多い支台歯の場合、リリーフすることである程度対処可能です。
ただし的確に行わないと緩くなりやすいので、リリーフするポイントを絞ることが大切です。 ところがリリーフは作業工程的に簡単な反面、 マージン延長法はきちんとやろうとすると結構な時間を要する作業です。 仕事量の多いラボにおいては、つい怠りがちになってしまうこともあり得ます。
いやいや、肉眼では問題なさそうに見えるし…!
今のCAD/CAMは本当に精度上がったから、別にそんなことしなくても適合してるよ!
私はそのように思いません。
図1の状態、肉眼ではおよそ適合しているように見えてしまうのが大問題なのです。 10倍程度のマイクロで覗いたところで、 人によっては適合していると判断する場合もあるかもしれません。
確かに肉眼では適合しているように見えるでしょう。 口腔内にセットしたところで、このギャップに気づけるドクターは少数派の様な気もします。
しかし図1をよく見れば、 ジルコニアクラウンは支台歯模型に対してマージン部と軸面でしか接していません。
この状態でクラウンに振動や衝撃を加えたらどうなるでしょうか。
とりわけ鋭縁となっていることの多い模型のマージン部が、簡単に欠けて壊れてしまうのです。 支台歯模型にジルコニアクラウンを嵌めた状態で咬合調整をするというのは こういうことです。
唯一の支えであったマージン部が失われるわけですから……、 ジルコニアクラウンは支台歯模型に対し、実際の口腔内よりも深く沈み込むことになります。
図1の浮き上がりがなくなるわけですから、パっ!と見、適合が良くなったように感じますよ?
あくまで模型上では。
この場合、口腔内にクラウンをセットした際の咬合高径は必ず高くなります。 その分低くしておけば良いという考え方もあるかもしれませんが、 これは誤魔化しの範疇を逸脱しません。
更に肉眼で合っている程度のマージンでは、 歯肉の退縮などのリスクも視野に入ってくることでしょう。
切削加工クラウンは従来のキャスタブルクラウンとは別種の補綴装置ですから、 咬合調整一つとっても同様に行ってはいけないのです。
歯科技工士は補綴装置に対するプロフェッショナルです。
より良い装置を製作するためにも、 マテリアルの特徴や欠点といった機微には、常に敏感でいなければならないと思います。
ライター 瀬 直
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