「ゼロから始めるステイン講座 Z」 |
『ゼロから始めるステイン講座 Z』 透明だけど透明感がない? モノリシックセラミックスについての考察 D
ステイン講座も早7回目。
これまで「透明感」についての法則性や、色彩学の基礎をメインに紹介してきました。 しかしステイン講座U〜Yを読んでも、
「実際どうしたら透明感を出せるのか?」 については、まだイマイチ実感が沸いていないのではないか…と思います。
実のところ、第一回の「気になるステインの選び方」に ある程度集約されてはいるのですが……、
ステイン講座U〜Yは、それに対する理由付けといった意味合いが強いのです。
そんな前振りも終わり、いよいよ本題。
さて、ステインをどうコントロールすれば、クラウンへ透明感を付与できるのか? これまで紹介してきた色彩学は、どういった形で臨床に直結するのか?
今回から具体的なところに踏み込みます。
●補色関係にある色同士は、それぞれ打ち消し合う働きがある
前回は「補色」の定義を簡単にご紹介しました。 おさらいですが、「正反対の色」のことですね。
参考までに補色対比表をもう一度。
さて、この補色において最も大切なことは、 減法混色において補色関係にある色同士は、それぞれ打ち消し合う効果がある ということです。
ん?… 打ち消し合うってどういうこと?
参考画像をもう一度。
イチゴが赤く見えるのは、 イチゴという物体が赤い光のみを反射し、 他の色を吸収してしまう特性を持つからである。
なるほど。
では打ち消し合うとはどういう状態でしょう。
結論から言って、 赤の補色が青である時、赤い光と青い光はそれぞれ吸収し合う働きがあり、 同時に重なると無彩色光(黒色)となる。
ということです。
図解してみましょう。
こちらの図によると、 イチゴの反射した光はフィルターに遮られ、黒色となってしまうことが分かります。
これは補色効果によって赤味が打ち消され、更に光量の低減によって明度低下するからです。 この時どの程度の黒色になるかは、赤と青の彩度によって異なります。
つまり、
淡い赤と淡い青を1:1で混ぜればグレーになり、 濃い赤と濃い青を1:1で混ぜれば黒になる、
ということです。
では、濃い赤に対して淡い青を9:1程度で重ねたならば?
やや赤みを失い、やや明度の落ちた「くすんだ赤色」になります。
これが減法混色における、補色の基本概念なのです。
ちなみに補色ですが、 吸収効果を得るためには、下図の様な方法があります。
●光の「吸収」と「透過」はよく似ている
さて、互いの色を吸収し合う「補色」ですが、実際臨床でどのように応用するのでしょうか。 ともすれば、まずは「透過とはどういうことか」から解説していきましょう。
ヒトの目は、物体を反射光によって認識しています。
光が透過するということは、 物体に入射した光がほとんど反射せず、突き抜けてしまう状態を指します。
透過性が高くなればなるほど、光の反射は少なくなりますから、 段々とその物体を視認できなくなります。
いい例が空気です。 基本的に、空気は視認できませんよね?
ところが、粉塵が舞ったり湯気が立てば、そこで初めて空気というものが視認できます。
これは粉塵や蒸気が光を反射するからですね。その反射光を視認しているのです。 (正確には空気というよりも、粉塵や蒸気が見えているだけですが…)
ちなみに光の特性として、「透過」と似たような現象があります。 それは「吸収」です。
既に補色の話をしていますので、ピンッ!と来る方は多いと思いますが、 上の図に準えて、もう一度おさらいしましょう。
電話機が黒く見える理由として、 この電話機の表面は、ほぼ全ての色を「吸収」する働きがあり、 反射光が「無彩色光」となっているからです。
先ほどの図と比べると面白いことに、どちらも「光が行ったきり帰ってこない状態」 という点においては同一です。
つまり「透過」と「吸収」は視覚的に一致する……? そうなのです。
光が吸収されて反射しない状態と、 光が透過されて反射しない状態。
「人間の目は、これを正確に区別ができないのです。」
いわゆる「トリックアート」などが、これを利用したものになります。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=14&v=g40K1wYFO_Q
●補色の吸収特性を利用して、透過しているように錯覚させる
ん?
補色は光を吸収し合う…… 吸収と透過はよく似ている……
もうお分かりですね。
補色をうまく利用すれば、 「光が行ったきり、帰ってこない」状態の再現が可能です。
つまり、ブルー系の色を塗ると透明に見える! ……のではなく。
ブルー系の色を塗ると、 下地のオレンジ系の光を吸収するから透明に見えるのです。 当然、
下地にオレンジ系の色が無ければ、 ブルー系を塗ったところで、単に青くなるだけなのです。
真っ白なフルジルコニアクラウンにブルー系のステインを塗っても透明感が出るはずもなく、 ただ青いクラウンが出来上がるだけです。
●錯覚効果を増幅する為に、反射層を内部に入れ込む
とはいえ、 人間は両目で立体視をしていますし、角度を変えて見ることでも立体認識しています。
経験則からしても、 透明な物体と暗いだけの物体を見間違うことは、ほぼ無いと言って良いでしょう。
写真や動画では肉眼を騙せても、単純な吸収効果のみで、 完全な透明感を得るのは極めて難しいのです。
いくら黒電話が光を吸収するといっても 無彩色光の表面反射は視認できていますから、
単に光を吸収さえさせれば透明に見える! というわけでもないのです。
ただし、下地が元々半透明であったなら? おまけに吸収効果のある塗装をした上に、 実際に透明な層を重ねて立体感を出せたなら?
そう、これが外部ステイン法における ステイニングとグレーズペーストなのです。
ステイニングで透明感を再現するためには、 グレーズペースト層にある程度の厚さが求められます。
これは内部ステインテクニックにおける 表層トランス築盛の関係とも一致します。
透明感を高めるためには
表面反射を減らし、 反射層(ステイン層)を透明層の内部に入れ込むことが大切 なのです。
今回はここまでで、 「ゼロから始めるステイン講座[」に続きます。
次は実際のステイニング手順を踏まえ、 どういったコンセプトで、どこに、どんな色を施すのかを紹介したいと思います。
【過去の関連ブログへのリンク】 〜気になるステインの選び方〜
〜内部ステインと 外部ステインのコンセプト〜
透明だけど透明感がない? モノリシックセラミックスについての考察 @
透明だけど透明感がない? モノリシックセラミックスについての考察 A
透明だけど透明感がない? モノリシックセラミックスについての考察 B
透明だけど透明感がない? モノリシックセラミックスについての考察 C
ライター 瀬 直
|