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『ゼロから始める歯型彫刻講座 @ 』
「補綴装置の形態は、天然歯らしく作れば良いというわけではありません!」 ・・・・・・とある歯科医師の先生がこんなことを言っていたのを覚えています。
なるほど、確かにその通りかもしれません。 しかし、補綴装置の形態が「天然歯の応用と昇華」であることは間違いないでしょう。
中にはメタルブレードの様に「天然歯からかけ離れた形態」も存在しますが、 広義で言えばこれも機能的応用の範囲になります。
ともすれば、仮にも補綴装置形態の基礎は天然歯、 まずは天然歯を模倣してみるトレーニングも有意的だと思います。
私はこうした発想から歯形彫刻を続けてきた経緯があります。
どうやって定義されているのでしょうか?
ここでまず思いつくのが歯の形=「歯牙解剖学」だと思います。 では「歯牙解剖学」とは何なのかを紐解いていきましょう。
「歯牙解剖学」の教科書を開くと、象牙質やエナメル質といった構造にそのもの対する解説や 歯牙を構成する各部の大きさや数およびその特徴などが記述されています。 そして歯帯の発達が顕著で丸々とした概形を持つ、前から6番目の臼歯を指す。
答えは否です。
・・・・・・とりあえずは、誰がみても下顎の6番に見えますよね。
ドリオピテクスパターンらしくY字に溝も走っているじゃないですか。
よし、解剖学の教科書にあった特徴通り! これはきっと天然歯に違いありません!!
角を丸くすれば天然歯らしくなるのでしょうか? さてその差はどこにあるのでしょうか。
実は、人間の歯牙について疎い漫画家が、 歯の本数がおかしい、あるいは形態が不自然な絵を描いてしまうのと同様の現象が起きています。
結論から言えば・・・・・・
この下顎6番を彫った人は大雑把な特徴を知っていたにもかかわらず、 その特徴の有する意義までは理解していませんでした。 だから見様見真似でなんとなく再現した結果、想像の産物になってしまったのです。
・・・・・・まぁ、私が昔彫ったものなんですけどね。
「歯牙解剖学」はあくまで「構造そのものに対する解説」および 「特徴の平均値」を述べているにすぎません。
10,000人の下顎6番を調べたところ、9,000人が〇〇〇という特徴を持っていた。 また長径は平均△△△mmであった。
これらの情報から 「上顎6番は〇〇〇という特徴を有する平均△△△mmの歯牙である」と定義されるのです。
極めて重要な学問なのですが、ここで注意しなければならない事があります。
歯牙解剖学においては、特徴の平均を述べていても、 その是非は問わないのです。
つまり、 平均的な最大豊隆部の位置については明記されていても、 「なぜその位置でなければいけないのか」といったところに関してはノータッチです。
天然歯の形態には、臨床上優位となる隠された意義が存在しています。 天然歯がもつ特徴の中には、清掃性及び機能性の観点から「こうあるべき」ものがあるのです。
当然、形態によって左右される歯周組織への影響や優位性、経時的変化を理解していなければ、 単に特徴の羅列を暗記しても天然歯らしい形態は再現できません。
仮に見様見真似で再現できたところで、 口腔内にマッチしない異物として存在してしまう可能性があります。
もちろん、天然歯模刻も大切です。 しかし天然歯形態の持つ優位的な意義を理解していなければ……
天然歯模刻のみを続けていても、 口腔内で長期的機能する補綴装置は製作できないのです。
何故なら、 天然歯のもつ特徴の中には補綴装置に再現してはいけないものもあるからです。
以上を踏まえた上で、
次回は歯型彫刻の意義や実際の練習方法について触れていきたいと思います。
ライター 瀬 直
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